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The Boy Who Cried Bitch 『やれよ、くそ女』

アメリカ映画 (1991)

12才のハーレイ・クロス(Harley Cross)が最高にして最後の演技を見せたサイコ風の心理ドラマ。ハーレイは、精神のバランスを崩した「どもり」の少年という難役を見事に演じきり、バリャドリッド国際映画祭で1991年度の主演男優賞を獲得した。この映画祭の主演男優賞は1989年がアントニオ・バンデラス、1990年がダーク・ボガード、1992年がジャック・レモン、1993年がジャン・マリア・ヴォロンテと軒並み名優が受賞していて、その中で、12才の少年の受賞は異例だ。そのくらいハーレイの演技が素晴らしかったということだが、残念なことは、メジャーな作品ではないため、DVDすら発売されていない。存在するのは、オランダ語字幕の付いた粗悪なビデオをデジタル化したもののみ。少年俳優史上、稀に見る名演がこのように冷遇されているのは残念なことだ。現在、この作品を入手するのはかなり困難なので、画質は悪くてコントラストが強すぎ細かい表情まで見ることはできないが、できるだけ多くの映像を紹介したい。

ダンは、精神に少し異常を来たしている母と、やはり、どこか少し外れている2人の弟の4人家族の長男だ。父親はモロッコの王族だと思われるが、ダンはアメリカに来てから一度も会ったことがない。4人の中で一番精神バランスの崩壊の瀬戸際にいるのがダンで、かなり重度の吃音症(どもり)でもある。ベトナム戦争帰りで、ダンの行かされている全寮制学校の用務員をしている男と、銃の取り扱いをめぐって親しくなるが、男がホモ的な一面を見せると関係を荒々しく断ち切り、それが原因で男は精神のバランスが崩れて発砲事件を起こし、それが引き金となってダン自身も一線を越えてしまう。精神病院に入院させられたダンは、そこでエディとジェシカという2人の友達を見出すが、ダンの行動が原因となって、2人は病院を去って行く。それがダンを、より追い詰め、暴力へと走らせる。病院側がダンの入院継続を拒んだことにより、一時的に帰宅。弟から貢いでもらった金で短銃を手に入れたダンは、それを、再入院を企む母に向ける…

ハーレイ・クロスは、とても12才には見えない。ハーレイらしく、様々に変化する表情は、特に、異常な面に集中し、そこには「子供らしさ」は一切感じられない。だから、可愛いわけでも、美少年でもないが、12才の子供がここまで役になりきって、精神の異常を演じられるとは、という心からの賞賛の念を抱くことができる。ハーレイのような性格俳優が、成人になって俳優をやめてしまったことは本当に残念だ。2015年発売の『ジャッカー』のブルーレイ(アメリカのみ)には、現在のハーレイのインタビューも入っていて、あまりの変わりように愕然とさせられる。


あらすじ

家の裏庭で、ダンを筆頭に3人の兄弟が、「死ね、ホモめ」。「ねえ、ダン、何すんだよ!」。「意地悪、兄貴!」と乱暴に遊んでいる。そのまま家に入り込んでも、ソファはひっくり返すわ、当り構わずそこら辺にあるものをぶつけ合うなど、歯止めはかからない。家の中は戦場だ。そこに母が帰ってくる。知らない男と一緒だ。「子供たちは、本で勉強してるわ」。「このまま、君と夜を過ごしたい」。倒れたソファの陰から、2人をじっと窺うダン(1枚目の写真)。部屋に入ってきた2人は、あまりの散らかりように言葉もない。ダンが2人の弟に、わざと大きな声で話しかける。「お前ら、ふしだら女が、新顔と デートだ」(2枚目の写真)。それを聞いた男が、「今、何て言った?」。母:「人を侮辱する言葉ね。『くそ女』みたいに」。「言わせておくのか?」。ダンは、その男めがけで、鉢植えの土をぶつける。そして、「つかまるもんか、このクソ女!」と言って2階へ駆け上がる。母がダンを追って2階に行っている間に、男はこっそり退散する。男が帰ったのを知ると、母は、部屋に閉じ籠もったダンに、「降りてくるんじゃないよ! この、クソガキ!」と怒鳴って階段を降りる。その途中で、ドアが開き、ダンが「壊し屋、登場」と言って踊り場に現れる。「壁はやめてね」という母の声を無視し、「分かったよ、母さん」と言うと、黒マジックで壁に黒い線を描きつつ駆け下りるダン(3枚目の写真)。
  
  
  

母は、それ以上叱るでもなく、子供たちに「チキン、食べる?」と融和的な姿勢だ。ダンは「寄こせ」と一番に食いつくが、ペッと吐き出し、「こ_こんなの、食えるか?」(1枚目の写真)。因みに、ダンはひどい「どもり」なのだ。「上等なのよ。チキン 嫌いなの?」。「し_知ってるくせに。このクソ女」。弟が、母を侮辱する歌を嬉しそうに口ずさむ。そして、ダンが「ふしだら女を、追い出せ!」とチキンを母に向かって投げる。飲み物を顔にぶつけられて頭にきた母は、胸を半分出してみせ、「いいわ。私は、ふしだら女!」「ふしだら女よ。どう、満足した?」と怒鳴り(2枚目の写真)、家を出て行く。それを見て唖然とする3人(3枚目の写真)。因みにダンのTシャツの柄は4つの髑髏。一家全体が、精神的に正常ではないような感じだ。
  
  
  

夜、帰宅した母。ソファで寝ている3人を見て、「どうしたら…? 手に余るわね」。ところが、ダンだけは、寝たふりをしてその言葉を聞いていた(1枚目の写真)。不気味な顔だ。そして、深夜の3時、大きな斧を手に持ち、母の部屋のドアを叩く。母:「何なの?」。ダン:「学校に、戻りたくないんだ」。母の前で威嚇するように斧を頻繁に持ち替えるダン(2枚目の写真)。「やめなさい、ダン。下に、置いて」。「いいとも、母さん」と、振りかざして見せた斧を、そのまま床に落とす。「学校には、戻らないからね。煩わされたくないから、寮に入れてる。そんなのは育児放棄だ!」。「安い学校だと、思ってるの? お金、かかってるんだから」。「お金なら、いっぱいある。だから、下らん男と、イチャついてんだろ!」(3枚目の写真)。「黙らないと、矯正施設に入れてやる」。ダンは、母に近づいて行き、「悲しそうだ? 感情を害した? え?!!」と最後は恫喝する(4枚目の写真)。怖い。
  
  
  
  

ダンの通っているのは、エセックス校という私立学校。その学校の用務員と親しくなったダンは、銃の撃ち方を習っている。「巧いぞ、ダン。さあ、もう一度。照準を合わせ、息をとめろ」。「寮に、聞こえないかな?」。「心配するな。狩猟シーズンは始まってる」。実に嬉しそうなダン(1枚目の写真)。「すごいぞ! ど真ん中だ。ほんとに、初めてなのか?」。「そうさ」。寮に向かう途中で、干し肉をもらい、「息子を思い出すな。同じ髪と目の色だ」と言われる。「い_今は、どこに?」。「知らん。妻が連れてった。ベトナムから帰ったら、消えてた。くそ女のせいで、気が狂いそうになった。立ち直りたくて、病院に行った。それから、この職に」。ダンは自分のことを訊かれ、「と_父さんは、アラブの王子」と答え(2枚目の写真)、父とは、「ち_小さい時、別れたきり」と言う。これは、嘘ではない。後で、母が、「彼はモロッコに。子供にも会わず、養育費も出さず、電話すら寄こさない」と説明している。さらに、最後の写真でダンの家が出てくるが、3階建ての大きな邸宅なので、かなり裕福であることは分かる。
  
  

放課後、学校の森で友達と遊んでいて、ダンが、「いいか、みんな、ここはジャングルだ。散らばれ! やられるぞ、この凶器にな」と言ってナイフを取り出す。そして、「いいか、ロス、お前がアカだ」と言うや、「こっちへ来い、敵め!」とナイフを喉に押し当てる(1枚目の写真)。「くそっ、ケガさせる気か! 放せ!」と言われて放したダン。自分の凶暴さに呆然とする(2枚目の写真)。しかし、この事件を受けて、ダンを連れて医師を訪れた母。医師の「ダンは全寮制学校が嫌いだと言っています。なぜ、入学を?」との問に、「勉強が嫌いで、かんしゃく持ち。家を2回壊しました。私を、怖がらせるだけでなく、他人まで。セラピーがぜひ必要です」と話す。その間、ダンは床に寝そべった不遜な態度(3枚目の写真)。ここまで話がくると立ち上がり、「もし、僕が、くそセラピーに行くと思うなら、くそ食らえだ」と、母の頬を指で押しながら言って、部屋を出て行く。
  
  
  

一方、用務員からは、「夏休みの計画は? 俺は、友達と狩猟に行く。メイン州だ。君も来るか?」と訊かれ、「う_撃たせて くれるよね?」。「もちろん」。実に嬉しそうだ(1枚目の写真)。用務員からは、以前、「ウチには武器庫がある。ベトナム戦争の時のだ。気に入るぞ。見に来ないか?」と誘われていたので、家まで付いて行く。しかし、家に入り、ダンが、「で、ど_ど_どこなの… ベトナムから持ち帰った武器は?」と訊くと、鍵が壊れていて見れないと答える。そして、上半身を脱いで自分の傷口に「触ってみろよ」と言う。その言葉を不審そうに聞くダン(2枚目の写真)。相手がホモだと思うと、ダンの態度が急変し、命令調で、「も_も_持って来いよ。ポテトフライ2袋、ハンバーグ2個、それに、コーラの大ビンだ。で_でも、部屋まで 来るなよ。ぼ_ぼ_僕が、下まで降りてくから」と命じ、早々に立ち去る。夜の寮の部屋。ダンと悪友がビールを飲んで騒いでいる。すると、窓を叩く音が。用務員が雨の中、窓から食べ物を届けに来たのだ。窓を開けたダンは、「い_言ったろ。ここへ 来るなって!」。「下で、待ってたんだ」(3枚目の写真)。「の_飲み物はどこだ? 弟は、何も飲んでない。コーラが好きだ」。「分かった、買っくるから」。「この、役立たず」と窓をピシャと閉める。この自尊心を破壊される行為のせいで、用務員の病気は再発し、女子寮に銃を打ち込んで警察に逮捕される。その姿を見、さらに、「心配するな、ダン。ここにいるのは、アカの奴らだけだ! お前のために 戻ってくる。忘れるな。戦争は、終わっちゃいない!」の言葉で、ダンの精神のバランスも崩壊する。深夜の寮で、膝を組んで柱に向かって座り、頭をリズミカルにぶつけ続けるダン(4枚目の写真)。「ダン、どうした? 気は確かか? みんな! ダンが 切れちまった!」。
  
  
  
  

大きな私立病院に連れて来られたダン。事務室に案内される。医療班のチーフが「座って」とイスを出しても、立ったまま。代りに博士が座って、ダンに、「山みたいな荷物だ。いっぱい持って来たね。音楽が好きかい?」と訊くが、ダンは無言で目線を合わさない(1枚目の写真)。そこにやって来た、エディ。17才の若きエイドリアン・ブロディが演じている。彼が『戦場のピアニスト』でアカデミー主演男優賞をとるのは2003年、12年後だ。この映画でも、ダンと母の次に精彩を放っている。エディは、常に鎮静剤を飲んでいないと、兵士との二重人格が現れるという患者だ。このエディが、ダンと同室になる。ダンが壁に貼ったベトナム戦争の写真に見入るエディ(2枚目の写真)。エディ:「戦争に、興味あるんだね?」。ダン:「と_友達が、い_いたんだ、ベトナムに。だ_だから、興味が…」。自分が冷たくあしらったことで逮捕させられた用務員への罪悪感か? エディ:「僕も、戦争には興味が。暴力 好きだから。特に興味あるのが連続殺人」
  
  

母が病院側から説明を受けている。母:「ダンの症状は? 10日間テストされて、結果は? 精神異常ですか?」。「彼には、器質性の疾患は何もありません。知能指数も正常です」。「他のテストは?」。「拒否されました。彼は、とても反抗的で、その点ではお助けできるかと」。そして、病院に来てから初めて、ダンは母と会う。「たくらんだな。こんなトコ、10日で おん出てやる」(1枚目の写真)。話す時、常に体を揺すっているのは不気味だ。「いい機会じゃない、助けてもらえるのよ」。「変えられるもんか。変わりたくないのに」。「ラジカセ用のCD、買ってくるわね」。「あんたからは、何一つ もらわない」「嬉しいだろ? 厄介払いできて」。次は、小集団討論の場面。患者にいろいろと話をさせて、それを元にお互いに発言させるものだ。エディが指名されて、「フェル先生に言わなくちゃ。新しい薬、とてもよく効くって」。その話を聞いて、うんざりとばかりにコップにツバを吐くダン。「ダン、何か言いたいことでも?」と医師が訊く。「訊いてくれたか」「こんな風に、考えたら…」「つまり… 母は、僕を ここに入れた」「でも、僕は ここと 無関係」「言いたいのは… 母には、何か問題があって、そのため、僕を ここに入れた」「自分の方が狂ってるのに、入れたんだ。僕は、どこも悪くないのに」(2枚目の写真)。ダンより少し年上の女の子ジェシカが、「ダン、あなたにもいっぱい問題がある。でも、それを 直視しようと…」と言いかけると、「自分を、何様だと思ってる!」と遮り、「そう、僕だって、まともに育ちたかった。お前は、ゴマスリの クソ女だ。いい子ぶりやがって!!」と詰め寄る(3枚目の写真)。
  
  
  

病院で開催されたクリスマスの食事会。母と弟の2人も一緒のテーブルに座っている。3人が楽しそうに話しているのに、片膝を立てて座り、むっつりとして口もきかないダン(1枚目の写真)。静かな食事中、一人の患者が「俺のクロワッサンに、髪の毛が!」と叫んで部屋を飛び出ていく。如何にも精神病院らしい雰囲気に、気まずい顔になる弟たち。自分をこんな所に入れてと母を睨むダン(2枚目の写真)。家に戻った弟2人は、「聞いて、ママ。僕たち 病院には行きたくない。ダンは好きだけど、病院にいるのは見たくない」と頼む(3枚目の写真)。
  
  

ジェシカを夜のトイレで怖がらせた翌日、共謀者のダンとエディは、洗面で仲良く話している。エディ:「昨夜は、やったな。2人のコンビ、バットマンとロビンみたいだ」。ダン:「そうだな」。その後、エディが言い出す。「薬のせいで、頭が働かない」。それを受けて、ダンが、「薬が、君の心を むしばんでる。クソの言いなりになるな」。「薬を捨てる?」。「君次第さ。前進だ」(1枚目の写真)。エディは、薬を洗面に捨てる。授業中、先生が、「言いたいことを話すことは芸術であり、我々の持つ最重要の権利だ」と高尚なことを話している。しかし、ダンは、ワザと後ろを向き、おおっぴらに自分のファイルを見ている。そして、先生が「発言する権利について、質問は?」と訊くと、中指を1本立てる(2枚目の写真)。「くたばれ」の意味だ。先生が「どうだね、マッケンタイア君?」とエディの意見を訊くと、薬のきれたエディは、「彼じゃありません、大尉殿。ビル軍曹で あります」と答える(3枚目の写真)。それを聞いて、思わず振り返るダン(4枚目の写真)。如何にひどい格好で座っているかがよく分かる。「エディが、指でパチン。僕は、エディ」。さらに指でパチンして、「私は、ビル軍曹」。すると、口調も変わる。先生が、「エディは薬を飲んだかね、軍曹?」と尋ねると、「エディは、いい兵士です。薬など、必要ありません」と答える。
  
  
  
  

その時、ダンが、後ろ向きのまま、人差し指と小指を立てた状態で手を挙げる。色々な意味を持つサインなので、この場合の意味は分からない。何れにせよ、手を挙げているので、先生が「何だね、ラブ君? 話すのかね?」と訊く。ダンは、ファイルから新聞記事を抜き取ると、切り抜いてきた記事の話を始める。記事の見出しは、『目と目の真ん中を刺してやった』。そして、話し始める。「何が 起こったかというと、柔らか~な皮膚にナイフがスーッと入って、犠牲者を染めた。赤くな」(1枚目の写真)。「もう十分だ、ラブ君」。「彼は 脂肪の層を刺していって、鼻の血管に達したんだ」。「席に戻って、ラブ君」。「奴が やったのは戦争だ。考えてみろよ、奴は30分もの間、刺すは殴るは 残忍の極みを尽くしたんだ」。先生が止めに近づいたので、ダンは「続きは、この上で」と机に上がり、「犠牲者を殺した後、戻って、自分の医者を殺した」、と言いつつ机の上のものを蹴飛ばし、飛び降りると、物を投げて暴れ廻る。それを止めようとする教師(2枚目の写真)。結局、ダンは看護士に押さえられ、真っ白な拘束室に閉じ込められた。そこでまた膝を組むと、前向きのまま、頭を壁にリズミカルにぶつけ続ける。例の症状の再発だ(3枚目の写真)。
  
  
  

丸1日の拘束後、看護士に連れられ部屋に戻るダン。すると、そこには見知らぬ大人がいて、エディが荷造りをしている。「ど_ど_どうしたの? ど_ど_どこ、行くの?」。「パパが、最高のセラピストを見つけた」。「どういうこと? で_出てくのか?」(1枚目の写真)。「パパは、ここが良くないと」。「そうだな、ここは クソだから」。その時、背後からジェシカが、「嘘はダメ。相棒でしょ」と口をはさむ。「何だって?」とダン。「パパさんは、あなたが、悪影響を与えるって」。それを訊き、エディの父に向かい「エディは僕の友達だ。ぼ_ぼ_ぼ_僕、何も悪いことしてない」と必死に言うダン(2枚目の写真)。連れられて出て行くエディに、「待って!!」と呼びかけ、「君は、ほんとの友達だった」とも言う(3枚目の写真)。他のシーンと違い、ダンの悲しそうな表情が印象的だ。
  
  
  

病院に大きなチョコレート・ケーキを持って面会に来た母。ダンは食べようともしない(1枚目の写真)。「な_なぜ、一人なのさ? な_な_なぜ マイクとニック、いないんだよ?」。「マイクは宿題が…」。「うそつけ! あいつならパーティだ」。「じゃあ ニックは? 9歳が、なぁんで忙しいんだ?」。「ニックは具合が悪くて」。「そうか、キャンディ、僕を一人ぼっちにする気だな?」(2枚目の写真)。キャンディは、母が一番嫌っている呼び名だ。「時々 思うんだ。2人とも兄貴がいることすら忘れてるんじゃないかって」。
  
  

みんなでテレビを見ている時、エディの代りに同室になった新入りが、「この クソ番組!」と言い出し、ジェシカが「待って、見てるのよ」というのも無視して勝手にチャンネルを変えてしまう。それを見ていたダンが、手に持ったプラスチックのフォークを喉に突きつけて「この、クソ野郎!! 生意気な!! 痛めつけてやる!!」と怒鳴る(1枚目の写真)。この行動は大問題となり、ダンは私服禁止。白い病院服で拘束室に閉じ込められ、薬剤も投与された。拘束室の隅でうずくまるダン(2枚目の写真)。しかし、ドアの下から差し入れられた1枚の紙にダンは笑顔になる(3枚目の写真)。そこには、『I ♥ you, Jessica』と書かれてあった。
  
  
  

ダンは、ローラースケート初体験のジェシカに、文字通り手を取って滑り方を教える(1枚目の写真)。何とか一緒に滑れるようになった時、後ろからぶつけられて転倒。助け起こしたダンに、ジェシカがすがりつく。抱き合う2人。ダンが幸せを見つけた一瞬だ(2枚目の写真)。そこに看護士が割って入る。「そこまでだ、お二人さん。交際は禁止されてる。だろ? いいか、私には、報告の義務がある。こんなうまくいってるのに、ブチ壊したくない」。病院の庭の木陰で話し合う2人(3枚目の写真)。「こっそり 見られてるの、うんざり」。「僕もさ」。「いつか、ここを逃げ出したいわ」。「そ_それ、本気なの?」。「ええ、もちろん」。「来いよ、行こう、さあ!」。「どこへ?」。「ハワイ。ハワイに行こう。太陽の出る方に」。そして、病院に出入りしている顔見知りのボランティアの車に乗せてもらって、夜のドライブを楽しむ。
  
  
  

しかし、深夜、バス乗り場で車から下ろされ、朝バスが来るのを待っている間に、急に心細くなったジェシカは、ダンが寝ている隙に公衆電話から父に電話をかける(1枚目の写真)。「もしもし、パパ?」「怒鳴らないで」「ええ、私は大丈夫」「私たち、何もしてないわ。誓う」。その時、ジェシカがいなくなったのに気付いたダンが駈けてくる。「このクソ女、何してやがる!!! 何しやがった、バカ!!!」。電話ボックから逃げ出して、地面に横になり、「許して。ごめんなさい」と言ったきり、丸くなって黙り込むジェシカ。それを見て、脇に座り込み悔しがるダン。早朝、病院から迎えのバンが来て、連れ戻される。その日、白い病院服を着せされたダンが、母の前で独り言を呟いている(2枚目の写真)。「この精神病院に、ずっと監禁だ。こんな前歴じゃ、どんな仕事にも就けない。だ_だから、はっきり分からせてやる。それとも、殺してやるかな。敵に対しては、もっと、し_真剣に、断固 分らせる。あー、ド_ドライに やることにする。刑務所には入れられないから、頭にグサリとやってやる。それが、アカに対する やり方だ」。そして、母に、「ぼ_ぼ_僕のナイフ、返してくれる?」と訊く。看護士:「武器の所持は禁止されてる」。ダン:「何って?」。母:「ナイフなんか、持てないの」。「キャンディの クソったれ!!」。「何よ、その 口のきき方!」。「僕… 行くよ、じゃあ…」。「お待ち。それ、何よ? 勝手に行くんじゃない!! 何が、言いたいの?! 治療が嫌いなのね? 困らせてばかり、このエゴイスト!!! 何が、望みなの?!!」。この激しい言葉にも、振り向いて睨め付けただけで、無言で立ち去るダン(3枚目の写真)。
  
  
  

エディに続き、ジェシカも病院からいなくなる。ジェシカが出口に向かうのを見たダンが、「ち_ちょっと帰るだけだよね、復活祭だから?」と尋ねると、「いいえ、パパが、ここには置けないって」とジェシカ。それを聞いて、ダンの顔がさっと曇る(1枚目の写真)。実に悲しそうな顔だ。「最後に、話せると思ってた」とジェシカ言われ、電話番号を書いた紙を渡される。真意を推し量るような目でジェシカを見るダン(2枚目の写真)。そして、好意を受け止め、噛みしめたような顔付きに変わる(3枚目の写真)。覚悟を決めた顔だ。最も好きだった人がいなくなることへの覚悟なのか、病院への復讐の覚悟なのか…
  
  
  

その夜、ダンは怒りを爆発させる。「ナパームだぞ、くらえ!」と、手製の火炎瓶を廊下に投げつけ(1枚目の写真)、駆けつけた看護士とは、スプレー缶で、「さあ、来てみろ、クソ野郎!」と応戦する(2枚目の写真)。しかし、ガスが長続きせず敢えなく取り押さえられる。床に組み伏せられて、「アカ野郎め、畜生、覚悟しろ!! 殺してやる!!!」と絶叫する(3枚目の写真)。どう見ても、かなり危ない状態だ。病院は、この制御不能な患者の入院継続を拒む。母:「家に帰すべきじゃないし、帰られても私の生活が保証されないでしょ?」「どうやって、他の病院を探せと?」。医師:「いい私立病院を5つ選定しました。病院には、私が全力で交渉します。ただ、ご承知おきを。多くの私立病院は、攻撃的な患者は受け入れません」。一つ紹介された病院を訪れる母とダン。そこは開放的で病院らしさもなく2人とも乗り気だったが、「他人を傷付ける恐れがある」との医師の報告書のせいで、最終的に不許可になる。「もし、2週間以内に入院先が見つかりませんと、我々としては州の施設に強制送致することになります」と言われ、母は、「よくも、そんなことが言えるわね! 入院させて、お金だけ取って治療もせず。厄介払いするってワケ?! 弁護士と相談する。1時間で退院手続きを。連れ帰るから」。「お勧めできませんな」。「お黙り」。母は、『我々は、ダンに適切なセラピーを施す病院を捜し続けます』という条項のある書類にサインして、ダンを一時的に家に引き取る。
  
  
  

久しぶりに帰宅したダン。「僕んちだ! もう見れないと思ってた」と感慨深げに見回す(1枚目の写真)。翌早朝、母が気配を感じて目を覚ますとダンがベッドの脇に座っている。不気味だ(2枚目の写真)。「今、何時?」。「6時」。「眠れないの?」。「よく寝たよ。シャワーも浴びた」「何しよう? ぼ_僕、何したらいい?」。母は、無責任に、「お向かいのカフェが開いてるわ。朝食でも食べてきたら? 新聞も読んだら。皆がしてるように」。「でも、僕みたいな子供いないよ」。それでも、おとなしく食事に出かけたダンだが、すぐに戻ってくる。「店に入った。そしたら、誰も彼も じろじろ見やがる。な_な_何で、あんな風に僕を見る?」(3枚目の写真)。「ニューヨークよ。みんな じろじろ見るの」。「こ_こんなの嫌いだ。あ_頭にくるんだ。粉々に叩き壊してやりたくなる!」。母は、ダンが出て行った後で、先日受け入れが不許可になった病院に電話をかけ、「彼が帰宅して落ち着いたので、電話を。ずっと良くなり、いい子です」「ええ、状況の変化を勘案して、待機リストに入れて頂けないかと」と頼む。
  
  
  

一方、ダンは、弟のいる寮を訪れ、じゃれ合っている。次男から、「タイムズ・スクエアで 散歩かい?」と訊かれ、「金、ないからな。くそ病院じゃ、一文無しさ」。「そこで、何してたの?」。「時間の浪費」。それを聞いていた三男が、「スズキのバイクを買おうと貯めたんだ」とお金を渡してくれる。「いいのか? 金なんか見るの久し振りだ」(1枚目の写真)。次男に、「ブロンクスビルでパーティ。来るかい?」と訊かれ、同行するダン。しかし、他の連中とは馴染めず、奥に一人で座って、ひたすらナイフを研ぎ続ける(2枚目の写真)。不安がられたのを嫌って、ダンは、プイと外へ出て行く。向かった先は駅の公衆電話。そこから、ジェシカの家に電話をかける。「ぼ_ぼ_僕、ジェシカに 話したいんです」と必死に頼む(3枚目の写真)。しかし、断られると、「畜生!!」と電話を叩き付け、床に座り込んで頭を壁に打ち付ける(4枚目の写真)。危険なサインだ。
  
  
  
  

床に座り込んいたダンは浮浪者と間違われ、追い立てられ、怖い思いをして家に戻ってくる。そして、自分の部屋で、体を揺すっている。それに気付いた母が、「どこにいたの?!」と問い詰める。「あんたに関係ないだろ?」。そして、ダンは拳銃に弾を装填する。「何 持ってるの?」。「何に見える? じゅ_銃だ」。「本物なの?」。「もちろん、本物さ」。そう言って拳銃を見せる。入手先を訊かれ、返事を拒否するダン。「ここは、とても危険な街だ。外の連中、狂ってる。身を守るには銃が要る」。さらに、さっき駅の掃除人とぶつかった時にできた傷を見せ、「見下げ果てた汚い奴らが、ぼ_僕を、襲った。僕を、階段から 突き落した。だから、仕返しする」と告げる(1枚目の写真)。母に、「仕返し? 病院に戻ることになっても、いいの?」「警察を呼ぶわ」と言われ、ダンは拳銃で電話機を吹き飛ばす。家から逃げ出す母の背中に、「母親のくせに、息子をサツに売るのかよ?!!」「銃は、ただの 口実なんだろ!!!」と叫ぶダン(2枚目の写真)。その顔には、一抹の悲しさが漂っている。その時、電話がかかってくる〔広い家なので、何台も電話機がある〕。それが病院からの電話だと知った時、ダンは、自分は一生入院させられ続けるのだと悟る(3枚目の写真)。その顔の表情は、いろいろな意味にとれる。
  
  
  

母は、結局、警察に行かずに家に戻って来る。家の中央の階段室に煌々と電気が点いている(1枚目の写真)。大きな邸宅だ。母が家に入り階段を登りながら「ダン?!」と叫ぶと、照明が消される。そして、ダンが3階から駆け下りて来て、「母さん、ポリ公はどこだ?」と拳銃を向けて訊く。母:「警察なんか いない。私だけよ」。ダンは、「動くな!!」と言って撃ち、母の頭上の照明器具を破壊する。ダン:「この、裏切者」。これは、再入院の電話に対してだ。母:「言う通りね」。動きかける母に、「止まれ!!」と、また一発。「血を 見ることになるぞ」(2枚目の写真)。拳銃を向けたまま降りて行くダン。「母さんは、重い病人だ。途方もない病気だ。自覚ないの?」。「私は病気なの ダン、きっと」。「きっと、じゃない。あんたは精神異常だ」。そして、母の顔に拳銃を突きつけ、「言うんだ、『私は、重病人です』」。「私は、重病人です」。「よし。次だ。『私は、精神異常です』」。「私は、精神異常です」。「よし」。そう言うと、ダンは拳銃を階段に落とし、踊り場に上がっていく。そして、踊り場に置いてあった斧を手に持つと、「銃を取れ」と母に命じる。銃を構えた母が、「近寄らないで」と言うと、ダンは、「やれよ、くそ女」とゆっくりと言い、「精神異常!!!」と絶叫しながら(3枚目の写真)、飛びかかろうとする。その瞬間、母の撃った弾がダンの心臓を貫いた(4枚目の写真)。階段を転げ落ち、床で息絶えるダン(5枚目の写真)。母が額にキスをしたところで映画は終わる。ダンは、これ以上の入院を嫌って自殺したのだろうか? 母に撃たせたことで、正当防衛といえどもある程度の罰は与えられる。それを狙ったのだろうか? 何れにせよ、あまりにも悲しい結末だ。
  
  
  
  
  

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